スキーヤーなら一度は行きたい 日本のてっぺんからの豪快滑降

日本を代表する山といえば、やはり富士山。スキーをたしなむ者であれば一度は滑ってみたい。こちら南面は、北面と比較し傾斜も緩く、雪質も良好な場合が多い。またまさに日本の最高度地点から滑り出せるというのも魅力だ。早期はアイスバーンに備え、ゲレンデ板のほうが安心だ。

レーダードームの撤去された剣が峰(P4)直下を滑る
レーダードームの撤去された剣が峰(P4)直下を滑る
六合五勺小屋(P2)脇の雪渓横断
六合五勺小屋(P2)脇の雪渓横断
奥の雪渓付近で滑降終了となる

 五月の連休が明けると富士山頂上直下に残る雪渓もザラメ雪に変わり、快適な滑降条件が揃うようになる。もう高度なスキー技術は特段必要とせず、シュテムボーゲンを確実にこなせる程度の技量で十分だ。しかし太陽が陰り強風が吹くと、上部雪面のクラストは驚くほど急速に進行する。経験豊富なリーダーの元、安全に日本一の大滑降を満喫したい。
 富士宮口の新五合目までは、夜間でも車両の通行はできるが、標高2400mの吹きさらし駐車場での夜は寒い。二合目の高鉢駐車場が静かで快適だ。
 新五合目から見上げる富士山には、この時期は既に雪が見えない。しかしまだまだ上部には残雪があるので、ここであきらめることなく出発しよう。火山砂礫や岩の出た、歩きにくい登山道をたどり六合五勺(P2)まで1時間。右手には八合目小屋下から延びる下部雪渓が届いているだろう。スキーを脱いだ後、この雪渓からどのように登山道に戻るのがベストか、良く観察しておこう。
 さらに登山道を辿り八合目の小屋へ。下部雪渓への降り口は、登山道からだと容易だが、上部雪渓末端から西に砂礫の中をトラバースして入る場合には、降り口ががけになっている。ここも下山時にどう移動すれば良いかを、予めよく観察しておく事が肝要である。
 九合五勺小屋までさらに1時間。高度障害で頭痛や吐き気なども出て苦しい。また強風などのため雪面が硬く、アイゼンを装着しなければ行動が不安な程であれば、更にこの上からの滑降は危険なものとなる。
 ここからの登りは、銀明水下まで上部雪渓上を直登しても、また左の雪の消えた登山道をジグザグに登っても大差は無い。直登ルートの場合には、滑降コースを予め観察できるというメリットがある反面、上部雪渓上端の急傾斜部を左から右にトラバースしなければならないため、キックステップの経験が少ない人にとっては高度感に足がすくむかも知れない。
 富士山の頂稜に到達してまず最初に感じる事は、その火口の大きさと深さだ。火口壁の対岸には紺碧のサミットフォール大氷柱が垂れ下がり、こちらの南側からは快適雪面が底まで続いている。腕に自信のある読者諸氏においては、一度は挑戦してみたい環境であろう。一方、レーダードームを撤去した剣が峰(P4)の測候所後は廃墟のようで醜い。それでも頂上の石碑まで登り、日本最高地点到達の感慨に浸ろう。

上部雪渓九合五勺小屋付近
上部雪渓九合五勺小屋付近
一枚バーンの快適斜面だ

 大展望を楽しんだ後はいよいよ滑降だ。測候所前でスキーを履き、まずは銀明水(P5)へ。測候所下は雪面が波打ち滑りにくい。もし火口底へも滑り込むのであれば、剣が峰基部からなら容易だ。
 頂稜から上部雪渓へは、銀明水で一旦スキーを脱ぎ、標高差約30mを下る。その際落石を発生させないよう必ず登山道を歩こう。
 上部雪渓の上端でスキーを履けば、あとはもう快適斜面に歓声を上げるだけである。滑り出しは30度程度の傾斜だが程なく緩くなり、休まなければ10分程度で8合目小屋下となる。
 この付近から下部雪渓に移動するのだが、視界の効かない時は登山道を移動するのが無難だろう。そして快適斜面の続く下部雪渓もあっという間に滑り降り、六合五勺付近でスキーを脱ぐ事になる。ここから火山砂礫の登山道をたどり、新五合目まで30分程度だ。

【プラスワンガイド】
富士山に車で行く時には、水も多めに積んでおこう。火山砂礫でスキーや靴がすっかり汚れてしまうため、帰る前にちょっと流しておくと後の手入れが楽だ。またサングラスやメガネも、うっかり拭くとレンズが傷だらけとなるためご注意を。

富士山富士宮ルート
地図1

掲載した地図は、国土地理院発行の数値地図25000(地図画像)を使用しました。