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大マテイ山~西原峠~権現山
今村 信彦

山行日 1972年1月30日~31日
メンバー 今村

1月30日
 前夜氷川駅にて泊る。既に先着のパーティがおり、ベンチは塞がっており、出札口前にツェルトを敷き夜を明かす。目を覚ますと、既に出札口は開らかれており、照れくさいことはなはだしい。
 7時半のバスにて小菅に向う。他に登山者は、一人もおらず心細い。終点の小菅で降りたのは、俺一人だった。空は真青だが風があり、俺のふところのように、ひどく寒々しい。ここより約30分で牛の寝への分岐点がある。左にバンガローを見、小菅川を渡るとジグザグの登りとなり、桧の木の林内を抜けると木の明るい道となり、気持ちの良い登りだ。所々に雪を見る。小尾根を回り込むと道は二岐になり右へ進むと、また桧の木の植林内に入り、雪がかなりある。思うように歩けず、気はあせる一方だ。この林もすぐに終り広葉樹林内に、わずかな細い道が、牛の寝へと続く。だが足跡は全くなく、俺一人の世界だ。気になっていたほどの不安もなく尾根上に出られた。尾根上は立派な整備された登山道がある。もう8年も前になる。やはり一人で大菩薩峠より、この牛の寝に入った時の印象が、はっきりと思いだされた。幾年も会っていない友に、ばったりと顔を合せたように嬉しく、また懐かしい。
 この牛の寝通りは、昔の大菩薩峠越えの往環であり、かなり多くの人々に歩かれていたようだが、現在は、意外と利用されていないようだが、無理な登りがなく、また手入れも良く静かな尾根道だ。この辺では、特に気に入っている尾根の一つだ。
 これよりわずかで大マテイ山の西面及び小菅への下降点に着く。この一帯は以前は、草深く樹林に覆われて、いかにも暗い感じだったが、今はすっかり伐採されてしまい、すごく明るい。これより先は初めてなので多少の不安があるが、真青な空は人の心までも明るくするが、予想以上の雪があり、足の方は重く、気は焦るばかりだ。雲取山より飛竜山、雁坂、破風山付近まで、雪の付いた奥秩父の主脈が、一望に見渡され、展望は申し分ない。道は大マテイ山のわずか下を左から捲き、右へ大きく曲ると広葉樹林内に入り、ゆるい傾斜で高度を下げる。しばらく行くと、道は尾根を外れ左へ行く。右の尾根(直進)は、鶴寝山へ出るが道はない。鶴寝山直下の東面に着くと、田元より登って来た道と合い、右へ折れる。ここには小さな、壊れかかった桐があった。前方には、姫松峠を越える車道が見え、その後方に奈良倉山がどっしりと構えている。道はかなり整備されているが、所々細い所もある。姫松峠よりジープでないと通れない車道を、奈良倉山南面直下へと行く。山頂へは、道が見あたらないが、たいした事もなさそうだが、魅力がない。それより気の方が焦っている。鶴寝山付近で痛めた右足が、ひどく痛む。特に平坦な所下り坂では、頭のてっぺんまで響く程痛い。前方は、これから進む、麻生山付近まで良く見られ、一応の見当がつく。奈良倉山付近一帯伐採され、3年生くらいの松が植えられているので、展望は素晴しい。奥多摩の山々、陣馬山、影信山、前方には、丹沢山塊、御正体山、富士山、三ツ峠山、そして滝子山より大菩薩と、懐かしい友に会ったように嬉しい。伐採された、全く気持ちの良い尾根を、南へと下り、左へ捲道のある小ピークを一つ越える。細いかすかな踏跡だが時間的には旱い。そして二番目の突起は、左を捲く道があり、佐野峠へ出る。道標は一本もないが、地図上の道はそのままだ。次のピークは、右を大きく、多少下りぎみで捲き込んでいる。道形は、はっきりとしているが、茅が多少うるさい。捲き終ると、尾根の右下を、ゆるく下って行くと、もう今日の泊り場である西原峠は真近だ。峠は付近一帯、すっかり伐採されており、展望は良いが、ツェルトを張るに良い所がなく、日はとっぷり暮れた中を、近くからポールに用いる捧を捜し峠のど真中に、ねぐらを作った。寝ながらにして、左に満月を、右上に富士山を眺められる一等地だ。風が止んだのは、なにより幸いだった。

1月31日
 夜中、幾度も眼を覚ましたが、おてんとう様は、俺のツェルトに直射し、全く快適な朝だ。峠よりすぐ登りにかかる。小寺山、大寺山へと、極く細い踏跡があり、所々小枝がうるさく歩きにくいが、意外と順調に進む。昨日以来、足は痛むが、山の魅力には勝てずびっこを引きながら行く。尾名手山まで2、3の小ピークを越え展望の良くきかない山頂に立つ。道は左に折れ、小さいのも入れ四つのピークを越える岩尾根があり、このコース中、最も深いヤブだったが、心配する程でもなく、尾名手峠に着いた。ここには立派な道標があり、以前はかなり歩かれていたことがうかがわれる。地図にある峠越えの道も、細いが付いている。かなり遠くに見えていた麻生山は、目と鼻の先となり、道も意外と良く1280m麻生山を越え、わずかで三角点ピークに達する。ゴミもあり、急に人間臭くなる。かなり以前より、あこがれていた権現山が目前にあり、感慨無量だ。麻生山の下りと権現山の登りは、小枝がうるさいが、途中かなり伐採されており、なだらかな上下を細い踏跡で結んでいる。あこがれの権現としては、たいしたことのない山道だ。下りに特に痛む足首、長い下りには、うんざりしてしまう。扇山への分岐点付近で水筒は、空になり、小量の残雪でコーヒーを沸かす。用竹までだらだらの下りだが、明るい気持ちの良い尾根だ。痛む足を引きずるようにして、また焦りに焦って、用竹へと下る。部落よりバス停まで、いやな車道だ。喉はカラカラ、足はメチャメチ々、汗を拭う間もなく、バスの人となり、上野原駅に出た。

〈コースタイム〉
1月30日 小菅(9:10) → 牛ノ寝通(12:15~12:25) → 大マテイ山(12:40~12:45) → 鶴寝山直下(14:25) → 姫松峠(14:55~15:20) → 奈良倉山直下(16:00~16:05) → 佐野峠(16:50) → 西原峠(17:15)
1月31日 西原峠(8:40) → 大寺山(10:00) → 尾名手山(11:10) → 尾名手峠(11:35~11:50) → 麻生山三角点(12:05~12:25) → 権現山(13:40~13:45) → 用竹(16:50)

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