山行日　1971年12月29日～1972年1月3日
メンバー　溝越、播磨、鈴木、川田、今村、松本、杉原、山本

12月29日
　播磨、松本さんに見送られ新宿を出、先発3人は伊郡北駅で降りる。一番バスで戸台まで行き、バス停のところから下り、橋本山荘で朝食。
　ダラダラ道の河原を丹渓山荘に向かって進む。山荘で登山カードを出し、いよいよ八丁坂の登りである。ジグザグの八丁坂は意外と早く登り切った。途中の大平小屋付近は、南アルプススーパー林道の工事中でガッカリ。ここでも自然破壊が行なわれている。ここより約30分で北沢ベースに着いた。

12月30日
　朝6時にベースを出る。新しくできた北沢小屋を横切り約1時間で仙水峠に着く。駒への道と別れ、南方の栗沢ノ頭への登りはすぐ樹林帯に入る。樹林を抜け出てダケカンバの登りにかかる。クラストした雪面はアイゼンがきく。風で調子が悪く苦しい。何回休んだろうか。やっとの思いで栗沢岳に着いた。強風にたたかれ、早々に下山する。帰路は左手の樹林から岩原に出、ベースに着く。

12月31日
　今日下山する溝越と一緒に後発組を迎えに、赤河原まで下る。

12月31日
　戸台までの乗り物の乗り継ぎは、全てうまくゆき、全部の乗り物の座席を確保することが出来た。この時期は一番混んでいると思っていたのだが大変好運だった。
　空模様はどんよりと曇っていたが、東京を出るとき隆っていた雨は上っていて、何んとかこのまま天気は持ちそうに思われる。
　戸台の丹渓荘で炬燵に入って朝食を摂ったため、つい腰を上げるのが遅くなり、出発がかなり遅れた。一緒にバスで降りた登山客はほとんど出発してしまい、我々が最後の方である。
　最初の1ピッチ目は、いつものことながら、荷物が体に馴染まず、馴れぬ体に重荷がくい込みなかなか苦しい。まして河原の単調な道ではなおさらだ。まわりの山肌にはほとんど雪らしき物は見られず、遥かかなたに白く光って、双児山から駒の稜線が見えるが、やはり雪は少ない様子だ。
　最初の一本をダムの所で立てて、暫く行くと、今日下山する溝越と、我々4人を迎えに来てくれた山本に出会う。我々の出発が遅かったので、山本達に大分下まで降りて来てもらう結果になったのだが、それにしても随分下で出会ったものだ。ベースを7時頃出て来たとのことであった。
　ここで暫らく山の様子や、雪の状態を話し合って、溝越に我々5人は励まされ、これからの健闘を約して、それぞれ右と左に分かれて、我々は一路赤河原に向けて出発。そこから2ピッチにて赤河原到着。
　その頃より空も晴れて太陽が顔を出す。赤河原では何パーティかのテントも見られ、登山客も沢山いて、仲々の賑わいを見せていた。ここでベースから降りて来ていた川田を加えて、ラーメン等で腹ごしらえをして、さていよいよ今日最後のアルバイト、北沢峠の登りにかかる。八丁坂では昨日降った雨で、登山道が凍っていて、つるつるの個所があり緊張させられたが、八丁坂上からは真青な空に鋸岳の展望が素晴しかった。
　八丁坂上から雪を見るようになり、ペースも順調にはかどり、途中林道が現われて少々がっかりしたが、廻りに広がる景色等を楽しみながら、大平小屋、北沢峠と登って、本日の最終日標のB.Cに到着した。
　B.Cの周りには色とりどりの天幕が張られ、大変な賑わいを見せていた。我々も大テントの横に、新らしく購入したカマボコ型の小型テントを設営し、夕食の支度を整えて楽しいテントの夜を迎えた。今日は天気が良いのだが意外と気温は暖かく、作業が非常に楽であった。
　テントに入り、素晴らしい？御馳走と、適度なアルコールと、バーナーの子守唄を聞きながら、楽しい夢路をたどった。明日の天気を期待しながら。

1月1日
　今日は全員で仙丈岳へ登る予定だ。早朝3時に起きて食事の用意をする。もっとも鈴木と私は小テントの方へ寝て、食当を大テン卜の連中にお願いしたため、大分寝功ができたのだが。大テントの方で食事が出来たとの声があってから、のそのそ起き出して行った。
　川田が書いた天気図によると、昨日から今朝にかけての好天は、本州上空を覆っている小さな移動性高気圧のためで、すぐその後から気圧の谷が接近している。そのためどう良く見積もっても、天気が好いのは今日午前中だけと言うことで、朝食を早々に済ませて出発。
　外はまだ真暗で、無風快晴の空には星がいっぱい出ている。これから天気が崩れるとは想像出来ないのだが、気温が意外に高いのが何か気にかかる。
　展望の無い森林帯の登りは苦しいが、いつしか太陽も出て、時々木の間から甲斐駒や、アサヨ峰が望まれる。急登急登の連続で四合目辺りまで来ると、前方に森林限界の辺りが見え、その上に小仙丈の稜線が見える。この頃より今まで快晴状態だった空が俄かに怪しくなり、小仙丈の肩の辺りより黒い雲が見えだした。
　我々も先を急ぐことにする。しかし森林限界を過ぎて、小仙丈の登りにかかる頃には一面の雲に覆われ、甲斐駒もアサヨ峰も隠してしまった。
　我々は尚も頂上目指して出発するが、小仙丈を越える頃より、一面のガスで何も見えなくなる。おまけに雪も降り出し、風も出て来たようだ。こうなるとただ先行者のトレースを追って登るだけだ。
　いくつかのピークを越して、尾根が痩せてくると、いよいよ頂上も真近だ。晴れていれば左右に広がるカールを見ながら、ご機嫌な登りなのだが、何せ上に行くほど風雪共強くなり、頂上に着いた時には休むどころではなかった。
　記念写真を撮って早々に下山にかかる。天候の割には寒く感じないのは、低気圧による降雪のためであろうか、何か雪がべたつくような感じだ。
　帰りは卜ップに立っている川田が、いやにとばして下るので、後に続く我々も一生懸命下った。登る時はアゴを出して登った所もアッという間に森林限界まで降ってしまった。
　ヤブ沢小屋への分岐点で最後の食事をしてB.Cに向けて駆けるように下る。何んでこんなに急いで下るのかと川田に聞いたところ、何んと煙草が切れてしまったとのこと、とんだところでとばっちりを受けてしまった。
　B.Cに帰着してから、雪はなお激しくなり、時々天幕の雪を落したりする、この雪の中を、夕方近く今村が上って来てベースに入る。全く御苦労様でした。今村が持って来たスキ焼に舌つづみを打ちながら、賑やかな話題が後をつきない。
　明日は気圧の谷が通過してしまうので、好天が期待できるだろうか？さらさら降る雪の音を聞きながら、寝袋に入った。

1月3日
　今日は下山日である。アサヨ峰に登る播磨、鈴木、川田を見送り、私達三人はテントを撤収して播磨達を待つ。戸台からバスで山室温泉まで行き、新年を祝う。

　今回の合宿は、新入会員も参加出来る山と言うことで、駒・仙丈になった。夏山・秋山での山行、12月の谷川岳の雪上訓練を行い合宿に参加した。いつもの事ながら、失敗が1～2あったことは、いっしょに参加した私達も反省しなければならぬと思います。今回は女性の方が初めて冬合宿に参加してくれたこと、また、計画外のアサヨ峰を登ったことなどは、一応成功したと思います。
　4年ぶりに溝越が参加してくれたこと、今村がガソリン、スキヤキの材料を荷上してくれたこと等、めずらしいこともありました。

　重いキスリングを背にして歩き始めてみると、冬山に来てしまったことがとても後悔されます。途中先発の人達が、荷を持ってくださってからは、急に元気が出てきて、北沢峠までは大変快適なものでした。冬山で初めての夜、月明りの中に見える摩利支天の素晴らしかったことは今でも強く頭に残って忘れられないものです。テントの数と同じように人の多いせいか、雪道は良く踏まれていて想像以上に歩きやすいものでした。時々吹いてくる風は冷いというよりも膚を突きさすような痛みを感じます。また体の調子が悪かったせいか、私にとって、甲斐駒の登りは苦痛以外のなにものでもありませんでした。それだけに山頂の祠を目前にした時は涙が出るほど嬉しくなってしまいました。狭いながらも楽しいわが家とはこのことでしょうか。テント生活は快適に過すことができましたが明日は下山という日の夜の冷えこみには、さすがの私も参ってしまいました。早くだれか起き出して火をつけてくれないものかしらと、しめっぽく冷い寝袋の中で震えながら夜明けを待つ時間の長いことは気短かな私には、とても耐えがたいものでした。いざ下山となると今までの苦しみを忘れてしまい、もっと登りたいと思い東京に帰るのが、嫌になってしまいました。また、機会があればもう一度くらい冬山に行って見たいと思っています。

　入会以来7ヶ月、たったそれだけでお正月の冬山合宿に参加させて頂きました。書物からの知識だけで漠然と、冬山は想像できぬ程厳しい寒さとの戦いであるとしか心になく、頑張らなくちゃ！と心秘かに重い荷を背負って、丹渓より凍りついて滑り易い八丁坂を気を張って登る。午前中には曇り空も午後近くからお天気もよくなり、鋸岳二峰が見える八丁坂上でホッとする。夏シーズンに一度も歩いたことのない山に冬登るなんて！と登山の段階的な抵抗を感じながら北沢のべースキャンプに向う。冬山での第一日の夜大晦日、初めての冬山で興奮したのか、空腹なのに飲んだのが災いしたのか、辛いジュース(？)を飲み過ぎ、醜態の第一夜。翌日元日仙丈岳を登るというのに前日の影響で、調子の悪い体をなんとか頑張ってみるけれど、ついに負けて、途中で皆んなと別れ、山本さんに悪いけれど共に下山し、テントの中に沈没。あぁ...正月そうそうこんなことじゃ、今年は禁ジュース(？)しよう！とシュラフの中で猛反省する。その晩明日こそ、甲斐駒ヶ岳だけは登りたいので自重し、おとなしくシュラフにもぐったかいあり、朝からとても体の具合がよい。お天気も良く晴れ。風がないと思ったら、仙水峠では強い風だった。峠からは樹林帯の急登で、体の具合も、天気も良いせいか足取りも軽い。樹林帯を抜けると北岳が見え始め、心は浮き浮き(もうこれだけの展望でわたし満足しちゃうなあ)。駒津峰を通り過ぎた所で休む。前方にオベリスクが望め、いつもは高く聳える富士山が低く見え、風花がキラキラと輝いてしばし、冬山装備に身を固めた現実を忘れる。甲斐駒へのトラバースで、右下を眺めると足がすくむ。のろのろしていると足元の雪が崩れ、さらに気が動転して余計足がガクガクする。小仙丈の下りも怖かったけれど、このトラバースも嫌な所でした。ガレ場が近くなると雪も少なくなり、ザレた面が所々でている。朝はあんなに良い天気だったのに頂上に着いたらガスってきちゃって...昨日おこない悪かった罰かなあ？11時55分、甲斐駒ヶ岳、2966m、南アルプス...やっと登れた!!仙丈岳に比べると人も少ない。早くガスがひかないかと待つけれど少しもよくならない。反対に風が強くなり、記念写真を撮って早々に下る。1時間も経たないのに風は強くなり、歩けなくなることしばし...。凍傷になったんじゃないかと顔におもわず手をつけてみるが感覚なく、時々百面相みたいに顔をひきつらせてみたり一人で笑ってみたり...。仙水峠でも強い風。やっと冬山らしくなったと聞かされて内心オドオドする。やっぱり厳しいなあ。テント徹収の時、ポールにしばりつけた紐が凍ってほどけなかったり、ポールに手がすいついてしまったり、洗った食器が一分もしないのに凍りついてしまったほどの寒さの中での三日間。日毎に濡れてゆくシュラフにもぐる時、完全な装備ってないものか？と考えてみたり、山から下りて夕食の用意をするまでのテントの中の憩いの時間の楽しさ。大変なことも辛いことも、同行した冬山経験豊富な方々のおかげだと心から感謝しています。女性にとって冬山は一つの壁ですし、この山行が最初で最後かも知れないと思うと、残り少ない青春の貴重な思い出となると思います。また駒津峰辺りに立ち止まって振り返った時に見た北岳や自峰の峰々...。南アルプスの魅力にとりつかれた人々の気持が少しわかったような気がすると同時に、あの北岳や白峰の連山には美しさより、厳しい神々しさを感じたのは私だけでしょうか。