山行日 1972年4月23日
メンバー 野田、小島、山本(義)、鈴木(嶽)、春原
入会して初めての山行。まだ名前も覚束ないような人ばかりで、新人も一人だったので内心、どんな山行になるのやら、いささか神妙な心持ちで出発。
最初に教えられたのが高崎駅前の「別荘」で、時間単位で御座敷を貸してくれる所。炬燵まで用意されていて(ハッキリ言ってくれなかったために、今夜はてっきりベンチかも知れないと思っていたから)全く意外でした。早朝、といっても6時頃ですが、ガラリと空いた電車に乗り、郷原までのつもりでいたら群馬原町で下車。
そろそろ、日曜の朝のゆったりした活動が庭先に始まったような平沢の集落を通り抜けていく。牛などものんびり唸り、いろんな匂いも漂ってくるのはいかにも山の農村らしい。その集落の外れの大きい農家で、その庭先にある井戸水を汲ませてもらって集落を後にしました。
地図で見ると岩櫃山は長野原線のすぐ脇にある小さな岩山で、出発する前は、一日をどうやって過ごすのだろうと一人で思案していたけれど、登ってみれば何も案ずることはなく、行手に大きく薬師岳、吾嬬山が連なり、係の人は初めから、向こうまでのコースを考えていたようです。が、結局のところ、ピークは岩櫃山だけで、薬師の麓の分岐まで行きそこで長いタイムをとり、机の里に下りました。谷川沿いの長い林道を出て、集落の中をズーッと歩いて「いわしま」駅まで来たところが、都合のよい列車がなく、子供たちの要塞遊びを見ながらバスを待ち、渋川まで出ました。
山の春は今が盛で八重桜があちらこちらに重そうな花をつけ、足元には紫や白のスミレがどこまでもついてくるので下る頃には「スミレばっかり!」と少々うんざりぎみ。ミヤマエンレイソウなどもひっそり咲いていたけれど、朽ちもせず積もった枯葉の中に踏み込むと、花曇りの明るさも手伝って秋山のような錯角を覚える。
岩櫃山は名の通り岩の塊で、岩穴をくぐったり、鎖をとったり、梯子を上ったりというコース。はるか下方には、車道と鉄道が平行し、菜花畑や集落が覗かれて、里の子供の声などが上昇気流に乗って耳に届く。そんな所で、途中、元気のよい小学生のグループにも会ったりした。岩櫃から薬師への径はかなり薮くさく、踏み跡は殆んど見られなかった。1時間歩いては1時間半くらいのタイムをとる、といったごくのんびりした山行で、ひばりが飽きもせず鳴きくらしている山腹で先輩たちが山の話や、呑んだ話、駿馬の話などにハナをさかせているのに聞き入りました。「高い山に登りたい」と言ったら「誰でも始めはそうなんだな」と笑われたけれど、のんびり語り合う、こんな山行もあるんだということを教えられたような気がします。それでもやはり、高くて人里離れた山に、登りたいと思い、我を忘れて歩きたいと思うのです。