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第一冬山合宿 槍ヶ岳
瀬村 寿美男

山行日 1978年12月28日~1979年1月2日
メンバー (L)江村(真)、須貝、浅野、伊藤、瀬村

 槍平の小屋を後に我々は進んだ。今日のベースキャンプを目指して、外は降りしきる雪の中を先に出発したパーティのトレースを辿りながら行く。
 ラッセルがなくて幸いだ。やがて中崎尾根の稜線が見えてくる、雲も切れ時々太陽が顔を出した。稜線に出てからベースを探しながらしばらく行くと、突然目の前に広い雪原が我々の前に現れた。
 広々として実にテントサイトとしては最適な場所であり我々はここにテントを張った。
 僕にとり冬山でのテント設営は12月の谷川岳を除くと初めてなので実に興味深いものであった。雲は切れ太陽が照り雪に反射して眩しい。食事を済ませ皆で酒を飲む、Iさんは実に良く飲む。寝る前、外にキジを打ちに出る、上を見上げると何と雲一つない星空だ。星に照らされ我々の正面に立ちはだかる穂高の山並みが不気味に輝いている。
 Iさんも外に出てきて「キジ場は何処だー」と酔った口調で言う。僕が答える間もなくその辺で用を足してしまったのだ。
 午前4時、我々は起床。皆緊張している。食事を終え、早目に出かける準備だ。昨夜の星空はどこえやら、風は吹き荒れ雪は舞い展望は利かない。薄っすらした踏み跡を辿り一歩一歩進んだ。左から猛烈な風が顔に当たり堪らない。新人の僕は何もわからずただ列の中に入り皆のする通りにした。後から多くのパーティが登ってきて追いつ追われつ進む。気がつくと雲が切れ太陽が時折穂高の稜線の上から顔を出す。逆光に穂高の山並みは映える。白一色の斜面が眼下に広がり、穂高の白と黒の岩肌が見える。風は強く雪は飛ぶ。太陽が出て青空が見えたかと思うと雲と雪が辺りを覆い何も見えなくなる。Hさんが作ってくれたパウンドケーキは寒さでボロボロだ。だが美味い。女っ気のない山行にHさんのカステラは想像以上の女っ気を我々に与える。スタミナもよろし!!更に進む、やがて小槍が見える。もうすぐだろうと前の人の足を見ながら登る。槍の穂先が見えた!!それはあたかも一個の芸術作品のようだ。また自然の作り出した一個の造形品のようにも見える。すかさず写真に収める。最後の一登りを前に小休止、槍の小屋に入る。温かい紅茶を飲み出発だ、登りは夏と変わらない。
 あっという間に頂上に着く。槍の頂上、握手しあった。「おめでとうございます」僕は今の感激をしっかり記憶に留めておくように心に言い聞かせた。「激レ!!」と。他の人々にとって数多く登った冬山の一つであろうが僕にとっては印象強いものであった。下山には先の肩の小屋に入り小休止の後、ベースに向け急ぎ足だ。千丈乗越は登りの時と同じく、相も変わらず風が強い。振り返ると槍が遥か上の方に見える。苦労して登ってきた所をこんなに早く下ってしまうには何かあっけない。ベースに近づくにつれ皆安心感と満足感に浸りながら斜面を遊びながら下る。それはあたかもテストで良い点を取って家路に就く子供のように。
 穂高の山々には西日が当たりその白い化粧を照らしている。夜、我々は安堵感と幸福感に浸りながら、そして紅白歌合戦を聞きながらアルコールを中心に長話をした。78年の大晦日である。不気味な静寂さをもった雪山の中で我々のテントだけが明るい。我々は結局、紅白歌合戦の結果を聴き、除夜の鐘を聞き、0時の時報を確かめ、正月を祝って寝た。さあ、次の朝は下るだけだ!!

第一冬山合宿 槍ヶ岳 パートⅡ
浅野 敏郎

 「やった、槍の頂上だ!」12月31日11時50分、念願の槍ヶ岳頂上に着いた。早速、江村さんおよびメンバー全員と握手。頂上には他のパーティもいないし、天候もまずまず。所々青空も覗いている。この瞬間のために、久山君を中心として10月より具体的計画に入り、11月に2回に渡って荷上げを行った。昨年の桜井リーダーの時の北鎌の厳しさを聞かされていただけに、天候に恵まれた今回はあっけなく感じられる。
 思い起こせば東京駅の出発まではハプニング続きだった。前日にリーダーの久山君より目の病気のため参加できずという連絡あり。当日は佐藤明君が仕事の都合で参加できなくなり、結局5名で新幹線に乗り込んだ。島田さんのウィスキー、林田さんの手作りケーキ、鍵山さんのシューマイ、田代さんのオニギリと各人個性豊かな差し入れをいただき、それが今回の合宿の成功原因となっているのではないか。
 12月29日、朝、新穂高温泉バス停で腹ごしらえして槍平に向けて出発。雪の量も少なく約1時間毎に休みを入れ、難なく午前中に槍平小屋に着いた。滝谷出合も雪で埋まっており、11月の荷上げ時より楽に通過できた。
 12月30日、今日は中崎尾根にベースキャンプを設営する日だ。荷上げ品の一部をザックに詰め奥丸山に登る。稜線に着いて15分ほど歩いた所で須貝、伊藤両氏はザックをその場に置き、荷上げ品の残りを取りに槍平小屋へ戻る。江村、瀬村、浅野は天幕場を探すべくそのまま歩き続けたが約15分ほどで広い絶好の幕場を見つけた。
 12月31日、曇りだが雲の切れ目に青空が見えている所もあり、小雪。アタック決行。最初にあったトレースも先行パーティを追い越したため我々がラッセルすることになった。一旦トレースらしき所を外すと凄いラッセルになる。途中で大部隊の後続パーティに先を譲って千丈乗越まで辿り着いた。トレースばかりを追っているのも面白くないということで早々に出発したが、西鎌の風の強さには驚いた。オーバー手袋をしても飛騨沢側の手だけが寒い。すぐに我々パーティは先頭になりトラバース部分で悪戦したものの、11時過ぎに肩の小屋に着いた。マイナス16度。
 槍の穂先は須貝君をトップに登った。アイゼンも良く効き、凍っている箇所もなく、荷上げの時登った時より楽だった。ベースキャンプに帰る途中、中崎尾根からの槍の稜線は綺麗だった。去り難く青空にそびえ立つ槍、穂高の峰々をいつまでも見ていたかった。B.Cへの帰路、新しく張った天幕を多数見た。我々の天幕の周りにもいろんなテントが張られていた。その晩は残り少ないアルコールで夜中まで騒いだのは想像に難しくないだろう。
 1月1日、下山。

〈コースタイム〉
12月29日 新穂高温泉発(6:45) → 白出沢(9:00) → 槍平小屋着(11:55)
12月30日 槍平小屋発(8:30) → B.C着(11:30)
12月31日 B.C発(7:25) → 千丈乗越(9:45) → 肩の小屋(11:05) → 頂上着(11:50) → 肩の小屋(13:35) → B.C着(15:25)
1月1日 B.C発(11:20) → 新穂高温泉着(16:00)

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