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集中山行・谷川岳
その4 沢登り・万太郎谷本谷
青木 綾子

山行日 2017年9月23日~24日
メンバー (L)山蔦、千葉(快)、青木

 谷川連峰北面を代表する名渓、万太郎谷本谷。美しいナメ、ゴルジュ、滝と、ひととおり揃った人気の沢らしいが、泳ぎの要素があるというところでカナヅチの私はなかなか参加の決心がつかなかった。「いい沢だからぜひ行ったほうがいいよ」と周りの声に背中を押され思い切って手を挙げてはみたが...やっぱり水が怖い。

【9月23日】
 土合駅で前泊し、翌朝の一番列車で土樽駅へ向かう。一番列車といっても8時34分発なので遅めの出発だ。土樽駅から小一時間歩いた河原から入渓。入渓してすぐ大きな堰堤を通過する。堰堤の中央突破で初端から腰まで水に浸かり、その冷たさにヒャ~と声が漏れた。さすがに9月も後半になると水が冷たく、じっとしていると寒さでガタガタ震えるほどだった。
序盤はナメとナメ滝が続く  沢の序盤はナメとナメ滝が続き、水流によって作られた横穴やポットホールなど自然の造形美を楽しめる。時折雨もパラつく微妙な天気だったが、晴れていたら水もエメラルドグリーンに輝いてもっと美しさを増すに違いない。
 関越トンネルの排気塔を右手に見送ると、すぐに本日最初のハイライト(カナヅチ第一関門)オキドキョウのトロに入る。ガイドブックには「右岸を簡単に巻けるが、ぜひとも泳ぎを交えて突破して頂きたい」とある。さっそく泳ぎの得意な千葉君がスイスイと泳いで渡る。山蔦さんも、泳ぎは人並み以上、水泳部未満とのことでスイスイ。
万太郎谷名物、オキドキョウのトロを泳いで突破  私は岩をへつりながら恐る恐る。どうしても泳いで渡らなければならない場所では意を決して水に入り、対岸目指して壁を蹴った。対岸から手を引っ張ってもらい、かろうじてたどり着いたが、3mあるかないかの幅でもアップアップだった。苦手とはいえ、数メートルは泳げるだろうと甘く見ていた私。実際は1ミリも泳げなかったという現実に自分でもビックリである。
 オキドキョウのトロ終盤、大きな飛び石を越えて対岸へハイステップで乗り越える場所があった。そこで最後尾の私が足を滑らせまさかの落水。すぐ下が小さな滝のようになっていて、流されて落ちたら足がつかない深さだ。水の落口は流れが強く、流されないように必死で岩にしがみつく。助けて~。上から下ろしてもらったお助けロープにすがり、なんとか引き揚げてもらったが心臓はバクバクである。なんとスリルのある沢なのか、ここは!(個人の感想です)
 オキドキョウのトロを抜けた後は、小滝をいくつか登ったり巻いたりして進む。どこもかしこも釜が深くて嫌になる。前をいく千葉君に、いちいち足がつくかどうか確認しながらついて行く。ある小滝の取付きは、足元に傾斜があっていかにもすべりそう。千葉君がなんなく取付き2mほどの小滝を登って上へ上がる。私も続いて釜の淵をそろそろと歩き、滝に近づいた。その時、ツルッ!足がすべった。やばい、足がつかない。必死でもがく。お尻が浮くが頭が上がらず、顔を水面から出そうとするほどなぜか水中に潜ってしまう。やっと頭が上になったと思ったら、ザックが邪魔で頭が水面から上がらない。ゲホッゲホッ!水を思いっきり飲んでしまう。溺れる!と本気で命の危機を感じたその瞬間、後ろにいた山蔦さんが私のザックを引っ張って助けてくれた。思わず山蔦さんにしがみつく。助かった~。またもやお助けスリングで上に引っ張りあげてもらいホッと一息ついたが、鼻水垂れ流しのひどい顔だったらしい。やれやれ。
迫力ある一ノ滝25m  次のハイライトは一ノ滝25m。登れるようだが今回は右から巻いた。以前ここに来た仲間から、一ノ滝の高巻きでルートミスして苦労したという話を聞いていたので警戒して臨んだ。滝の少し手前のルンゼから取付いて登っていくと、下から「上行き過ぎじゃない?滝の落ち口を目指して」と山蔦リーダーのアドバイスが飛ぶ。まさにそのとおりで、戻って横にトラバースすると踏み後らしきものもあり、それほど苦労せずに丁度よい位置で滝の落口へと降りることができた。
 続く二ノ滝は右壁が階段状になっており簡単に抜けられた。
 時刻も16時をまわり、そろそろ今日の寝床を決めなければばらない。二ノ滝を越えたあたりから幕場を探しながら歩いていると、右岸を少し上がった場所に、3人が寝るには十分な平らなスペースを発見。おそらくこのルートではこれ以上はない一等地だ。ここを幕営地に決め、薪を集めて焚火と夕飯の準備をした。万太郎谷本谷はビバーク適地が少なく、何パーティーも入渓するというシーズン中には幕場を確保するのに苦労しそうだ。
幕場はルート上の一等地  日も落ちて、沢で焚火を眺めながらまったりと過ごす時間は本当に心地よい。沢の疲れか酒のせいか、焚火のそばで舟を漕ぐ千葉君。話に加わろうと体を起こすのだが頭の中は寝ているようで、ゆらゆらと体が揺れて今にも焚火にダイブするか、はたまた後ろの崖から沢に転落しそうで見ていてハラハラした。

【9月24日】
 翌日、やっと顔を見せた青空にテンションがあがる。今回、集中山行に参加したパーティー中、集中場所の肩ノ小屋に一番近そうな我々は6時起きで食事と撤収をすませ、8時前にのんびりと出発。歩き始めて直に三ノ滝が現れた。三ノ滝は上段、下段と分かれていて下からは上段の様子がよく見えない。滝の直登は難しそうなので、下段は水流の右壁を山蔦さんトップで登る。続いて私。上のスラブ状は手がかりが少なく一瞬迷ったが、左にトラバースすると手足があり、テラスに上がることができた。
 三ノ滝上段は残置ハーケンが多いと記録で読んでいたが、滝を目の前にしてもハーケンらしきものは確認できない。リードの山蔦さんは、滝途中から右に斜上するクラックを伝い、灌木帯にてピッチを切った。難しい場所でなければ自分もリードできるかな、なんて思っていたが、いざ滝を目の前にすると腰はひけるわ、足は滑るわで、山蔦さんに確保してもらっていても結構怖い。三ノ滝上段を登り始めるとすぐシャワークライムで頭から冷たい水をかぶり身がすくむ。滝の直登を避けるルートなのだが、こちらも決して易しいとは言えなかった。ビレイ点からは潅木と笹をつかみながらトラバースして三ノ滝落口へ。
 三ノ滝の先は厳しい滝や溺れそうな深い釜もなく、私としてはひと安心。段差の大きい滝をいくつか越えるとだんだん水量も少なくなり源頭の雰囲気がでてきた。水流がなくなると露岩帯となり、稜線も見えてゴールはすぐそこ...かのように思えたが、そこからが長くて後半はヘトヘトになってしまった。最後は草紅葉の稜線に囲まれた笹薮の斜面を肩ノ小屋直下へ詰め上げゴール!先に到着していた仲間からの声援が嬉しかった。
紅葉の笹原を詰めて肩ノ小屋へ!  万太郎谷本谷、私にとってはスリル満点だったが、水への恐怖がなければもっと楽しめただろう。仲間に助けてもらい遡行を無事に終えることができて感謝の限りだ。終わってみれば岩の造形美や沢のいろいろな要素を楽しめる、噂通りのいい沢だった。またいつか訪れてみたい。その時まで、水恐怖症を克服しなくては。

〈コースタイム〉
【9月23日】 入渓点(9:40) → オキドウキョ(11:30) → 一ノ滝(14:40) → 二ノ滝(15:40) → 幕営地着(16:30)
【9月24日】 幕営地発(7:30) → 三ノ滝(8:00) → 肩ノ小屋(13:20)

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