山行日 2018年5月20日
メンバー (L)佐藤、千葉(朋)
明さんが5月頃になったら富士山を滑ろう、と声をかけてくれた。日本最高峰からの滑走だよ、と。その響きはわかりやすくて、それだけで私の心を惹き付けた。富士宮ルートは富士山を南斜面から登るルートで、登山口が最も高い標高にある。
都内を朝に出ても滑走自体は間に合うのだが、高度順応のために前日のうちに標高2,400mの富士宮口新5合目の駐車場に向かった。新月から何日も経っていなくて空が暗く星が綺麗だった。駐車場には望遠鏡で天体観察をする人たちが、ちらほら散見された。辺りは次第にガスに包まれ真っ白になった。車のなかで小さな乾杯をして仮眠。
明朝は日の出とともに起床。天気は快晴。夜の間に車が入って来ていて駐車場はかなり埋まっており人の往来で賑やかだった。登山者やスキーヤーの姿も多かった。ザックに板を括り付け、足元にスキーブーツ、手元にトレッキングポールを持って駐車場を6時に出発。登山口の入口には、遭難防止なのだろう、厳重な柵がバリケードのように立てられ、それを乗り越えて入る。
頭を上げると目の前には富士山の広大な黒い斜面が広がっている。そこに雪は見えない。明さんの著作『リフトで登る日帰り山スキー特選ガイド』には、残雪は上部にあると書いてあるので気に留めないようにするが、今年は例年より1ヶ月ほど雪解けの速度が早いし前日に遠目に見た富士山の斜面には僅かな白い筋を確認しただけだったので雪の少なさを覚悟した。
スキーブーツのまま火山砂礫の夏道を辿って行くと9:30ごろ、新7合目の小屋の辺りから最初の雪渓が現れた。元祖7合目(標高3,010m)まで続く。直登する登山者もいたが夏道が出ているので、そのまま登山道を行く。
眼下には御殿場の景色が広がり、駿河湾と伊豆半島まで見渡せた。大きな雲が形を変えながら、ゆっくり動く。明さんはゆっくり高度を稼ぎ、私も、その背中を目で追いかけながらマイペースで登って行った。高度障害が出ないように水をマメに採る。
2つ目の雪渓は8合目(標高3,250m)から頂上直下まで続いていて直登する。明さんがキックステップでしっかり雪面を切ってくれて登り易かった。この辺りから時折、強い風が吹き始め歩みを止めて身を伏せてしのぐ。アンザイレンの登山者もいた。高度障害で頭がフラフラし息が切れて来る。順応しているようで頭痛や吐き気はない。足元が雪に埋もれた鳥居が見え頂上が近いことを知らせる。すでに降りて来る人もいる。9.5合目からは黒い岩が露出していたので、岩陰にスキーとザックをデポし、そこからは空身で頂上へ向かった。岩には氷が付いて凍っている。
頂上では強風が吹き体温をがんがん奪う。ゲレンデスキー用のグローブは薄くて指先がかじかんで痛いので何度も叩いた。お釜と剣ヶ峰は真っ白で雪煙が立ちピッケルとアイゼンがなければ危険そうなので明さんの判断で諦めた。
ビュウビュウ吹かれながら、それでも浅間大社奥宮前と剣が峰の見えるところで一通り記念撮影し下山開始。
デポした岩場に戻り、板を落とさないように注意して装着したら軽くなったザックを担いで滑走開始。斜面が広いので高度感は感じないが斜度がある。明さんが先に降りる。相変わらず華麗だ。続いて降りると雪面はカリカリのザクザクで、私の板は比較的薄いので踏ん張らないと持って行かれる。板を縦にする勇気を持てず斜度が落ち着くまで横滑りでやり過ごした。すぐにバーンが広がり絶景が飛び込んで来る。目の前が一面青くなって空に吸い込まれるような感覚になる。一つ目の雪渓を15分くらいかけてシュテムボーゲンで降り切る。あっという間だ。振り返ると最高峰はもう見えない。明さんが滑りながら沢山写真を撮ってくれた。
板を脱いで少し下り、二つ目の雪渓に入る。雪は風と雨に吹かれて変な凹凸になっていて下るほどに引っかかる。登山者の間を抜けて10分ほど滑り降りて登山道に出た。次第に空気が濃くなり息が楽になる。下界の緑が近くなる。宝永山が左手に見える。赤茶けてこの星ではないみたいだ。
来た道を下り、あっという間に駐車場に着いた。多くの外国人が富士見物に来ていた。明さんが車に積んでくれていた水で板とブーツの砂埃を落とし帰路についた。帰りに寄った麓のスーパーから今降りて来た富士山が大きく見えた。
〈コースタイム〉
富士宮口新五合目(6:00) → 新7合目 → 富士宮口頂上(12:00) → 滑走開始 → 新五合目(15:00)